No.11 ミスティー

黒猫のミスティーは「母猫」でした。
産まれたばかりのチビ猫たちとコンビニ裏の吹きだまりに不法投棄されたスクラップの車で暮らしていました。腹ペコカラスに狙われたり怖いことをするニンゲンに傷つけられたりしないように大切に守りながら暮らしていました。一日中チビ猫たちをペロペロ毛繕い。ミスティーは自分のご飯を忘れてもチビ猫たち全員がお腹いっぱいになるまでミルクを飲ませました。満腹になったチビ猫たちはみんなでくっついて暖かく眠りました。たくさん愛されながらチビ猫たちは丸くなって眠りました。ミスティーはチビ猫たちが安心して眠っている姿を見ると誇らしくてしあわせな気持ちになります。みんなが立派に育つようにがんばろうと強く誓いました。

しかしある日警察官たちが来てスクラップカーを調べ始めました。

「この車怪しいな。恐らく例の大事件に関係した車だろう。
本署に運んで調べよう。至急レッカー車の手配をしなくちゃだな」

母猫ミスティーは戸惑い焦りました。

「どうしよう。困ったわ。住むところを探さなくちゃ。
まだこのチビたちにはノラでやっていくチカラはないから。
早くしないと危ないわ。お巡りさんに相談してみようかしら」

ミスティーは「新しいお家が見つかるまで待ってくれませんか」と優しそうなパトロールのお巡りさんにお願いしました。

「事情はよくわかったけどね。レッカー移動はもう決定なんだ。
ボクがペーペーじゃなくて偉かったら中止の権限もあるんだろうけど。
ホントに申し訳ないけれどキマリなんだよ」

ミスティーは寝る間も惜しんで毎日毎晩新しい隠れ家を探しました。
チビ猫たちが安心して眠れるようなところを探したけれど
どの場所も「なんか違う」カンジがしました。

そんなある日。探し疲れたミスティーは道路工事のトラックの荷台でひとやすみすることにしました。
エンジンの余熱が暖かくていつの間にかうたた寝をしました。
目が醒めた時にトラックは高速道路を走っていました。
ミスティーは寝ぼけてなんだかわかりません。

「あれ?ここはどこ?いけない。わたしたくさん眠ってしまったのね。 
あ。ミルクの時間だわ。急がなくちゃ。チビ猫がお腹をすかせてるわ」

慌ててミスティーはドライブインで荷台から降りて走りました。
だけどそこは知らない町で知らないニオイでした。ミスティーはものすごく困りました。
トラックの人に頼んで子猫たちがお腹を空かせている町まで引き返してもらおうと思い
ドライブインまで急いで戻ったのですが道路工事のトラックはもうありませんでした。
ミスティーは悔しくて悲しくて涙を流しました。

「なんてドジなんだろう。母猫失格だわ」

ミスティーは交番で相談したけれどさっぱりダメでした。

「う~ん。コンビニ裏のスクラップカーだけじゃわからないよ。
そんな車は日本中にたくさんたくさんあるからさ」

季節は過ぎていきどんどん寒くなります。
時が流れてもミスティーは迷いこんでしまった新しい町に馴染めません。
景色もヒトゴミもカラスでさえも「よそよそしい」ように感じるのです。
ミスティーが公園のベンチで途方に暮れているところにレインが登場します。

「にゃままま~」
「まあ。可愛いオンナノコね。きちんとあいさつができて偉いですね」
「にゃままま~」
「まだあんまり喋れないのね。お菓子を食べる?」
「にゃままま~」
「わたしにもコドモがいたんだけどドジしちゃったの。
まだ名前も付けていなかったのよ。あなたのお名前は?」
「レイン!」
「そう。素敵な名前ね。あら。もう帰るの?
え?そう。冒険の途中なのね。気をつけてね」

レインとバイバイしたすぐあとにミスティーは張り紙を見つけます。

「黒猫のレインを探しています。他にも困っている黒猫は大歓迎です。
詳しくはレインハウスの詩人まで連絡ください」
「あ。さっきのコだわ。連絡しなきゃ」

ミスティーは詩人に電話をしました。
レインのコトを伝え自分の大失敗を話しました。

「ん?ちょっと待てよ。オマエは黒猫のミスティーなんだな。
コンビニ裏のスクラップカーで暮らしていたんだな。ちょっと電話を切らずに待ってて」

電話の保留の音楽は「レットイットビー」でした。レルピー レルピー。

「もしもし。ミスティーママ?」
「え??? わたしのちチビ猫なの!?」
「そうだよ。いまはゼリーって呼ばれてるよ。詩人がつけたの。
ママがいなくなってお腹がペコペコだったの。車のお家もなくなったの。
だけどコンビニの店長がご飯をくれたからオッケーなの。店長ハウスに行っちゃったけど。
みんなは拾われたよ。ボクだけ探偵さんがレインハウスに連れて来たの」

詩人の手配した乗用車でミスティーはレインハウスに来ました。
ちょっぴり恥ずかしそうなゼリーを抱きしめて何度も何度もなめました。
ゼリーが大きくたくましくなってるコトに少し驚いてすごく嬉しくなりました。
「離ればなれの時間がよかったのかな?」そんな風にも思いました。

ゼリーが反抗期の時にちょっとした騒動を起こすのですがそれはまた別の時間でのお話です。

あらすじと100匹の黒猫»