No.1 ゼリー

黒猫ゼリーはコンビニの駐車場で暮らしていました。
他にも兄弟がいたのですがいつの間にかゼリーはひとりぼっちでした。
でもコンビニの店長がいつも売れ残りのご飯をくれたり
おかしな話をしてくれたので
ゼリーはそんなに寂しくありませんでした。

「なあ。今夜のカツ丼弁当はどうかな?
 新製品らしいんだけど特に美味くないよな。
 本社は目玉商品にしたいらしいんだけどさ。
 実際今日も売れ残っちゃたしね」

黒猫ゼリーは美味しいと想いました。
「売れ残り」というコトバの意味はわからなかったけれど
なんだか自分と少し似ているような気がしました。

「なあ。地球ってさ。
いつか粉々になっちゃうらしいよ。知ってた?
まあいつかと言っても何十億年も先の話なんだけどね。
オレ想うんだけどさ。
ダイヤとかゴールドって永久じゃん?
固いし溶けないしさ。だからさ。
地球が粉々になるじゃん?
でもさ。ゴールドとダイヤは永久だから粉々になんないの。
そんでね。宇宙に金とダイヤだけがプカプカしてんだ。
きっとすごい空は綺麗だぜ」

ゼリーは宇宙もゴールドも知らないのですが
空が綺麗なのは素敵だと想いました。
ある夜のコトです。
いつもお喋りな店長がしょぼくれています。
「なあ。オレさ。飛ばされるんだ。
売り上げが伸びなくてさ。
それとノラ猫にエサなんかやって不潔だとか言われてさ。
ノラ猫が集まってくるコンビニなんて
ダメで店長の資格ないって。ごめんな。
アシタから遠くの店で研修なんだよ。
だからもう来られないんだ」

ゼリーは「飛ばされる」という
コトバの意味はわからなったけれど
それは「いなくなったお母さんや兄弟と似ている」と想いました。

ご飯がもらえなくなったので
自分でエサを探しにいきました。
恐い目にも遭いました。
でもそれより「店長と逢えない」コトを
とても寂しく想いました。

それから季節がひとつ過ぎたあと。
カツオフレッシュパックを持った
優しそうなオトコが近づいてきました。
ゼリーは久しぶりのごちそうでムシャムシャ食べました。
オトコはニコニコ笑いながら言いました。
「おいしいかい?ボクは探偵なんだ。
ねえ?キミの名前はレインというのかな?」

ゼリーは困りました。
だってその時は「名前なんてなかった」のですから。
名前ってなんだ?

ワタシと一緒にレインハウスへ行かないかい?
カツオフレッシュパックが食べ放題だよ」

黒猫ゼリーは探偵と一緒に旅に出るコトにしました。

レインハウスには沢山の黒猫がいました。
そして自分はレインじゃないコトを知りました。
でもかわりに詩人が「オマエはゼリーな」と
名前をくれました。
ゼリーはその名前が気に入りました。
それに沢山の仲間ができたのが
嬉しくてたまりませんでした。

ゼリーは星空に星がチラチカとしているのを観ると
「コンビニの店長」のコトを想いだします。
「店長も店長ハウスで
たくさんの店長となかよしだといいな」と。

ゼリーとレインはたまに話をしています。
それはたいてい「店長のおかしな話」です。
レインもその話を楽しそうに聞いています。

そんな風にしながら黒猫ゼリーは
レインと98匹のネコと詩人は
いつまでもいつまでもなかよく暮らしました。

おしまい

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