Down Road

CD

通信販売可

2010年発表
プロデュース:斉藤ヒロシ(千葉ルック店長) コーラス:金子マリ

千葉のミンクスという狭いスタジオでミックス・マスタリング含めて3日間でレコーディングした。
アルバムタイトルはその頃流行り出した「配信ダウンロード」にささやかに抵抗する感じでつけた。

「Down Road 道を下る」。
それについては歌詞カードを読んで欲しい。
ライブハウス千葉ルックはロックバンド中心で弾き語りの出演者はあまりいなくて店にエレピはない。
だからオレが出演する時はエレピを毎回レンタルしてくれていた。
しかしある日突然ヒロシ君は「カオル専用エレピを買っちゃいました。
他の人には弾かせないから落書きして」と。
そんな流れでこのアルバムは「カオル専用エレピのみ」で弾き語り録音することになった。

当時とても仲良くしてもらっていた金子マリさんにコーラスをお願いした。
マリさんは「70年代の魔法を見せてあげる」と言った。
レコーディングの朝にマリさんを迎えに行くと黒いドレスで正装してヨーロッパ映画にあるような先がクネクネ曲がった銀のティーポットでお茶を飲んでいた。ロックな貴婦人を生まれて初めて目撃した。

マリさんがレコーディングブースに入りコーラス録音が始まる。
一般的なコーラスのダビングは主旋律に対して上下に並行して低音・高音と録音していく。
しかしマリさんのファーストテイクはまったく違った。
銀のティーポットのようにクネクネと情緒不安定な人のバイオリズムのように
ジグザグしたよくわからない謎のメロディーライン。
ヒロシ君もオレもポカンだったけど百戦錬磨のプロシンガーに任せようと黙っていた。
そしてマリさんは2本・3本とコーラスを重ねていくと
見事に「ひとつのコーラス」として仕上がっていく。

記録はないけれど1時間もかからずにマリさん録音は終了したと思う。
マリさんは「ついでにというかさ。
カオルちゃんのリズムや音程が悪いところが目立たないようなサイクしといたから」と言っていた。
確かに「ホントに70年代の魔法だな。プロってすげー」と思った。
それをマネしたくて「アシタのアタシ」ではオレもコーラスにチャレンジしたけど
やはり付け焼き刃はボロが出た。

このアルバムも唄とエレピを同時録音したから椅子のきしむ音や爪が鍵盤に当たる音が
ボーカルマイクに録音されている。
CDの最初と最後に分割して収録されている「21世紀ラプソディー」だけは
ルックのライブでバンド少年をかき集めてリハの時に録音した。
分割した理由はプロデューサー斉藤ヒロシが「10年後にこの歌詞をカオルさんが
唄っているとは思えないから」だ。
カットされることになった曲の中盤の歌詞は当時の世相を痛烈に批判・皮肉した内容で
確かにいまそれを唄う気にはなれない。

「詩人は夜明けにガムを噛む」というほぼ即興でやった曲がある。
その時オレは「このタイトルの曲がファーストアルバムにはなくてダウンロードに収録されているのは
おもしろい」と思い録音したけれどいまは「企画倒れだったな」と少し後悔。

DVD盗賊盤を聴いてもらえばわかるけれど
それに収録されている「社交辞令は最低のコミュニュケーション」は「アシタのアタシ」の原曲。
というかライブで唄ってみたら歌詞に違和感を覚えて全面的に書き直した作品。

「swing」「星の落ちる場所」はライブハウス勤務時代の閉店後の
誰もいないステージでぼんやりと酒を飲みながら作った曲。
~くだらない唄ばかりが流れては消えてゆく みんなどうかしているぜ我に帰ろう~ 
これは愚痴と悲鳴の中間みたいなフレーズで音楽業界で働くことに疑問を持ち疲れ果てた当時の心境。
あまり人気のない曲だけれど個人的には好きな曲だ。

このアルバムの録音は2日しかなくてエンジニアの食事タイムも忘れるほど集中していたから
レコーディングの詳細などはほとんど記憶にない。
もしかしたら昔のHPに記録が残っているかもしれないけどその記憶も不確か。
改めて聴き直してみると軸がブレて散漫な印象のアルバムだけれど
「レコード・記録」という意味においては相応しい作品だと思っている。
発売して数年後に宣言も公言もせず無期限音楽活動休止して
8年近くの引きこもり生活に突入するオトコの作品らしいなと振り返り痛感。

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