NO.3 シルバとムーン

最初にレインハウスの住人になったのは双子の黒猫シルバとムーンです。
夏が終わった日の次の月曜日。昼下がりにふたりはやってきました。

「こんばんは。詩人さん」
「こんばんわ。わたしたちはシルバとムーンです」
「おす。ハロー。こんばんはってまだ昼過ぎだぞ。ちょっと早いんじゃないのか?」
「わたしたちは銀色の半月の夜に生まれました。こんばんわ」
「詩人さん。昼間の月は見えにくいけれど消滅したんじゃありません。
いまも世界のどこかを照らしています。こんばんは」
「ふむ。なんだかよくわかんないけどオマエらいいコトを言ってる気がする。
おし。ゴホン。えーと。こんばんはシルバ。こんばんわムーン。
こんな月の美しい昼下がりにこんなむさ苦しいところへようこそ。
美しき黒猫さん。詩人は身にあまる光栄です。
うむ。こんばんわは意外といいかも。
芸能界の『24時間おはよーございます』よりよっぽどいい」

黒猫シルバとムーンはふたりとも「銀貨をふたつに割った半月形のネックレス」をしています。

「このネックレスは世界でたったふたつだけ」
「切り口のギザギザを合わせると満月のカタチに」
「そっか。イカしたネックレスだな。オマエらは本当になかがいいんだな」
「詩人さん。お言葉を返します。わたしたちは『なかよし』なんてレベルじゃないのです」
「詩人さん。光は影をつくります。夜というのは地球の影なんです」
「磁石にはプラスとマイナスがあります」
「それはどちらがどうとかじゃなくセットなんです」

シルバは過去のコトはすべて覚えていますが未来のコトはなにもわからないのです。
だから「約束」ができません。
ムーンは未来のコトはすべてわかるのですが過去のコトはなにもわからないのです。
だから「想い出」がありません。

「あのさ。オレと暮らしてたレインという黒猫はさ。
ぜんぜん神秘的じゃなくてむしろ俗っぽかったんだな。
だからオマエらの話は摩訶不思議でおもしろいよ。
まあ何を言ってるのかよくわかんないとこもあるけれどさ。
もしふたりが『地球誕生と同時に生まれた』と言われてもあっさり信じちゃう」

「詩人さん。わたしたちはそんなに長く生きていません。
今日で5000回目の誕生日です。そしてあときっかり5000年生きます」

シルバとムーンは空をみながらよくヘンテコな唄をうたっています。

~月ではウサギがおもちつき そいつを食べたら目が真っ赤
シルバームーンは宵の夢 銀の半月ルナティック~

「なあ。オマエら。というかムーンさ。
未来がわかるのならレインのコトを教えて欲しい」
「かまいませんがわたしの預言はひとりにつき1回だけですよ?
それでもよろしいですか?この預言が最初で最後ですよ」
「なんでもいいよ。オレはレインのコトが知りたい」

ムーンの預言

このレインハウスには張り紙をみて自ら訪れたり探偵が探してきたり沢山の黒猫が訪れるだろう
その「100匹目の黒猫」がレイン詩人はその100匹すべてと暮らすコトになるだろう

「なあ。シルバ。月の裏側ってどんなカンジなのかな?」
「わたしは何度か月の裏側の掃除のお手伝いをしました。
いつでも綺麗に輝やくようにシルクで磨くのです。
シルクの布に息を吹きかけてぴっかぴかのツルツルに磨くのです」

詩人は古い物語を想いだしました。湖の水面に浮かんだ月を
洗面器ですくい取ろうとした愚か者の物語を。

「なあ。シルバ。銀貨ネックレスはイカしてるよな。どこで買ったの?」
「あなたにもらったんですよ。詩人さんが4900年前に海賊だった頃」

詩人は信じました。カンペキに信じました。
だって「黒猫のコトバを信じられなくなったらココロが終わり」でしょう?

「なあ。ムーン。オマエらはあと5000年生きるんだろ?
その頃にはオレもレインもみんな死んじゃってるだろ。
オマエらはどこへいくんだ?ここにとどまるのか?」
「詩人さん。さっき言ったでしょう?未来のコトは1度しか答えません」

ムーンの預言通りたくさんの黒猫がレインハウスにやってきました。
そして100匹目にはレインが帰ってきました。
レインも時々シルバとムーンといっしょに唄っています。
その姿はとても愛らしいのですがレインの音程にはいささか問題があります。

だけどレインが帰ってくるはまだ先のことです。

おしまい。

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