中世ヨーロッパにこんなおふれが出されました。
「善良なる国民に告ぐ。
最近我が国では魔女という恐るべき存在が跋扈している。魔女とは教会を裏切り悪魔と契りを交わした唾棄すべき存在。天災・病気などすべての不幸は魔女の仕業である。魔女たちは治療・占い・まじないと称しさまざまな恐るべき悪魔の呪術でニンゲンを堕落せしめる。その魔女を支えているのが黒猫。
また魔女が黒猫に化けている場合もある。
善良なる国民に告ぐ。
魔女・黒猫を見かけたら即刻王国親衛隊まで通報せよ。教会の厳正なる裁きのもと魔女には死の鉄槌が下されるであろう。また魔女や猫をかくまったりした者にも死の制裁を下す。
善良なる国民に告ぐ。
魔女・黒猫は神が作りたもうた清らかな世界に絶対に存在してはならない『ノイズ』である。
『ノイズ』は徹底的に排除されてしかるべきである。神の名の元に」
(かんじがよめないこどもたちへ。
「まじょ」が「わるもの」と、きめつけられていたじだいがありました。まちにわるいことがおこると、ぜんぶまじょのせいにされました。そしてクロネコはマジョのなかまとて、いっしょにしけいになりました)
こんな立て札が街中にあふれ「魔女裁判・黒猫狩り」がおこなわれていた時代がありました。
詩人はその古い記録を読み思いました。
「レインがもし時空を超えてこの時代に紛れ込んじゃったらかなり危険だ。
好奇心旺盛なレインがタイムマシーンに乗って街をウロついてたらかなりヤバい。
もしも愚かな妄信者に捕まったらにゃままま~じゃすまされない。なにか手を打たないとマズいぞ」
そこで詩人はタイムトラベラーのチカラを借りて中世のヨーロッパ中に
「レインハウスの張り紙」を貼るコトにしました。
「黒猫レインを探しています。しっぽが長くてにゃままま~と鳴きます。
情報提供者には20億ユーロとカツオフレッシュパック食べ放題。
また魔女狩りで追われている黒猫さんたちも安全なレインハウスで暮らしませんか?
気軽に詩人まで連絡ください。夜中でもOKです。合図のノックはコン・コン・ココ・コン」
ある嵐の夜のコトです。
すごくハデな雷鳴が響きました。空が割れたようなすごい雷です。
もしかすると本当に空が割れちゃったのかもしれません。雷が鳴って大雨がザーッとふって
強い風がビュンと吹き抜けると一瞬すべては静まりかえりました。
コン・コン・ココ・コン
ノックの音がしました。
レインハウスの黒猫たちは不安気にドアを見つめています。
詩人はドアの向こうに話しかけました。
「どちら様ですか?オレはレインハウスの詩人だよ」
「わたしは黒猫ノイズ。張り紙を見て魔女狩りから逃げてきた」
「おー。長旅ご苦労さん。さあ中に入って」
「いや。簡単には入れない。我々は長きに渡り迫害さけ続け疑り深くなっている。
だから信じられるまで入るコトはできない」
「わかった。いまさ。我々って言ったけどたくさんいるのか?」
「いや。わたしひとりだ。でも正確にはひとりではない」
「ん?ひとりだけどひとりじゃないの?」
「わたしは魔女狩りで処刑された黒猫たちの行き場をなくしたタマシイの集合体だ。
魔女狩りの生き残り黒猫ノイズのカラダを借りてわずかな希望に賭けてココに来た」
「そうか。ずいぶんヒドい目にあったんだな。
ところでノイズさ。そのたくさんのタマシイの中にレインはいるのか?」
想ったよりずいぶん深い穴に石を投げてしまったようです。
なかなか「音」がかえってきません。
「いや。レインはいない」
「ふひー。よかったよ。それがわかっただけでもいい。
さあ約束のカツオフレッシュパック。好きなだけ食べて。ってたましいの人数分あるかな?」
「我が名は黒猫ノイズ。たくさんのタマシイの集合体。
実体は1匹だから心配は無用。
それより本当にココは安全なのか?
本当に黒猫たちがなかよく安全に暮らしているのか?
レインハウスの黒猫たちと話して確かめたい」
「りょーかい。好きなだけ話すといいよ」
ドアの向こうのノイズにレインハウスの黒猫たちは話しかけました。
「オレたちはハリーとケーン。こんな嵐の夜に生まれたんだ。
町に嫌われて追い出されて大雨の夜ココに来た。それから毎日フレッシュパックを食べてるぞ」
「暖かいミルクティーがありますよ。甘い飲み物は安心しますからたくさんどうぞ。
お砂糖たくさん入れましたよ」とアールとグレー。
「ヨーロッパの神様ってイカサマなんだね。
用心棒は強いから言いつけて神様をぶっ飛ばしてあげるよ」とダイス。
「ワタシは過去のコトをぜんぶ覚えています。
あなた方の痛みを忘れたりしません」とシルバが言います。
ノイズはすごくひさしぶりに柔らかい気持ちになりました。
「ありがとう。よくわかった。わたしもココで暮らしてみたい」
「お。やっと信じたか。でもそれぐらいでいい。
信じた人間にあっさり裏切られて捨てられる猫も多いしね」
ノイズのカラダにはたくさんのキズがありました。石をぶつけられたキズ。疑われたキズ。
追われたキズ。差別されたキズ。友達の黒猫や大好きな魔女が火あぶりで殺されたキズ。
黒猫エルは優しくノイズのカラダをなめました。ゼリーとロボはクスリや包帯の用意をしました。
ムーンは静かな唄をゆっくりと唄いました。詩人はどうしたらいいのかよくわからなかったので
とりあえず「魔女の宅急便」のビデオを流しました。
いまではノイズはキズもすっかり治りみんなとなかよく昼寝坊しています。
詩人にレインのことを聞いてノイズは思いました。
「レインは呪文を覚えたがったりホウキに乗りたがるだろう。
レインが帰ってきたら魔女に習った蝶々を捕まえられる呪文を教えて空を飛び回って
世界の果てまで冒険に連れて行こう。でも。レインがどんなにねだっても。あの時代だけはダメだ」
詩人はレインハウスの裏口でイライラしています。
「好きで黒猫に産まれた訳じゃないのにな。猫は自分が白でも黒でも茶色でもどーでもいいのにさ。
黒猫は不吉だっていじめたりさ。だけど黒猫だからってだけでブランド的にありがたがったりさ。
人間つーのはいつの世も身勝手でゴーマンだ。猫は裏切らない。裏切るのはいつだって人間だ。
火あぶりなんてよく思いつくよな。てめーが悪魔そのものじゃねーか。でも中世だけじゃない。
ペットショップで売れ残った猫を賞味期限切れだからって山に生き埋めにする奴らもいるしな。
買う奴も売る奴もどーかしてるぜ。そーいうのが黒人差別とかになるんじゃねーのか」
いつの間にかノイズは詩人の影の上に座っています。いつもより影は黒く濃いなと思いました。
ノイズは詩人のタバコに火をつけようとしたけれけどやめました。
詩人の涙でタバコが消えると思ったからです。
おしまい。
*中世のヨーロッパではキリスト教会が「異端信仰者」を「魔女」として
拷問処刑が繰り返されていました。悪天候や農作物の不作などもすべて魔女の仕業として
彼女たちを(男性も20%)迫害弾圧しました。(数十万~数百万人が処刑)
この時にネコを「魔女の使い」として一緒に火あぶりにしました。
そのせいでたくさんの猫がいなくなってしまったのでネズミを媒介とするペストが
14世紀ヨーロッパで爆発的に流行した大きな要因といわれています。
参考資料/「プロファイル研究所~魔女裁判」
(現在このサイトは閉鎖。原因は自称良識ある一市民やある団体からの迫害とも言える猛クレーム)